「災害は忘れた頃にやってくる」という標語に表されるように、いつなんどき起こるともわからないのが災害です。日本は地学的にも地震が発生しやすく、また近年は温暖化の影響もあって、豪雨災害や土砂災害が増加傾向にあります。
災害に遭遇したとき、適切に行動するために大切なのが「教育」です。私たち日本人は、幼少期から防災訓練などの防災教育に慣れ親しんできました。東日本大震災以降はその傾向がさらに強まり、教育機関が防災教育を行う機会がどんどん増えています。
そこで今回は、学校で行われる防災取り組みを念頭に、全国各地の取り組み例や、取り組む際のコツなどを紹介します。お問い合わせする
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防災取り組みの重要性
日本は災害大国です。死者6,434人を出した阪神淡路大震災、死者1万8,427人を出した東日本大震災などの大地震をはじめ、大雨や台風による災害など数多くの災害が日本を襲ってきました。
世界でも有数の地震発生数を誇っているのは、日本はプレートがぶつかり合う場所にあるからです。また日本列島は、ちょうど台風の進行ルートと重なっているため、毎年甚大な被害に見舞われます。
では、このような自然災害に対してどのように備えればいいのでしょうか。
被災時おける素早く適切な行動の大切さはいうまでもありません。しかし災害を正確に予測することは困難です。また自然災害の発生そのものを、科学の力で防ぐことも不可能です。
だからこそ子どもには、災害時に自分の命を守れるだけの知識を身につけてもらう必要があります。災害が起こったときに自ら実践できる環境を整えるためにも、これからも防災取り組みは積極的に行うべきといえるでしょう。
防災取り組みのメリット
災害時には、自分で自分の身を守る「自助」、地域住民など身近な人と協力して助け合う「共助」、行政など公的機関からの支援を受ける「公助」が大切だといわれています。なかでも自分で自分の命を守る「自助」がもっとも重要です。
大災害のときは大人もパニック状態となり、自分のことで精一杯になりがちです。しかも学校の場合、先生の人数に対して生徒数が数十倍いるケースも珍しくなくありません。生徒一人ひとりの面倒を見るのはキャパオーバーなのです。
だからこそ子どもたちは、自分で身を守って生き延びるための知識を知る必要があります。
学校が積極的に防災取り組みを行うことで、生徒に対して自助の方法を伝えることが可能です。防災や減災についての意識づけができるだけでなく、災害が発生した際にパニックを起こして避難できなくなる確率も減らせます。
では、防災取り組みにはどのようなメリットがあるのでしょうか。くわしく見てみましょう。
防災に対する意識が身につく
子どもたちが「災害はいつ起こってもおかしくない」という意識を身につけられること。これが防災取り組みのもっとも重要なメリットです。
時間の流れとともに、人は過去の災害への意識が薄れていきます。その状態で災害に遭遇することは、非常にリスクが高いといわざるをえません。
したがって防災教育で大切なのは、定期的に防災に関する意識的な取り組みを行い、防災意識が薄れないようにすることなのです。
防災の意識を維持するためには、生存に必要な物資を備蓄しておくことや、被災時における迅速かつ適切な行動が取れるように訓練しておくことが欠かせません。定期的に防災取り組みを行うたびに防災の意識が強くなり、結果として命を守ることにつながります。
災害が発生した後の対処法を把握できる
災害発生時に生き延びるためには、具体的な対処法を知る必要があります。避難行動などの判断が遅れれば、助かる可能性は下がってしまうからです。その意味で、防災取り組みによって災害発生時の対処法を把握することは、きわめて大きなメリットだといえるでしょう。
現代人はスマホを紛失しただけでパニックになります。「電気が止まるとまったく生活できない」という方もいるでしょう。便利な社会になったことと引き換えに、緊急時への対応能力が低くなっているのです。
実際、停電になってもガスコンロを使えばお米を炊けますし、エアコンがなくても暖を取ることはできます。水道が止まっても飲み水を確保する方法はありますし、食糧がなくても飢えをしのぐことは可能です。
つまり災害が起こってインフラが使えなくなったとしても、十分な対処法を把握していれば生き残れる可能性があるわけです。これは大人だけでなく子どもでも同じです。
災害時における子どもの生存率を上げるためには、いざというときに適切に判断して行動できるよう、防災取り組みを通じて教育することが肝心なのです。
国内でも多くの学校で防災に関する取り組みを行っている
2011年の東日本大震災以来、子どもたちに適切な防災教育を行うべく、全国の学校がさまざまな取り組みを行っています。ここでは実際に行われている取り組みの中から、参考になる事例をいくつかご紹介します。
新居浜市立金栄小学校の取り組み
新居浜市立金栄小学校では「土砂災害・浸水被害から命を守れ。」というプラン名で取り組みが行われました。
新居浜市は、平成16年に発生した台風15号、台風21号の被災地です。川の氾濫や土砂崩れ、流木などによる甚大な被害を受けました。被災の経験を風化させることなく、被災したときの体験を次世代に継承させるという意味で、この取り組みが始まりました。
同校の取り組みでは、小学校高学年の子どもを対象に、松山地方気象台などから専門家を招き、台風発生のメカニズムや降水量と土砂災害の関連性を学習したり、地域の地理的な実情に応じたタイムラインを作成したりするなど、地域住民とのつながりを重視する関係作りを行っています。
児童たちは命の大切さや、人命を守る際の避難行動などを学習することができ、防災力の向上につながったようです。
京都市立正親小学校の取り組み
京都市立正親小学校では「守るぞ正親のまち ぼくらジュニア防災隊」というプラン名で取り組みが行われました。
同校の学区内は、古い町並みと細い路地が迷路のように絡み合う密集市街地です。避難経路が頭に入っていないと、災害時にパニックになり、迷子になるなどのトラブルが起きてしまいます。
そこで同校では、路地に設置された看板を見て避難経路をすぐに判断できるように、防災路地めぐりをゲーム化しました。この取り組みは地域の協力のもと行われたので、子どもたちだけでなく、地域住民の防災意識を高める意味でも有効だったようです。
新潟市立小針小学校の取り組み
新潟市立小針小学校では「災害から助け合う『小針防災五人組制度』の結成」というプラン名で取り組みが行われました。
新潟は新潟地震(1964年)や中越地震(2004年)など、大規模な地震被害を経験している地域です。
災害時には、近隣住民同士で助け合う「共助」がとても重要です。しかし近年では、隣人同士でも顔や名前を知らないなど、人と人との距離が遠くなり、「共助」の意識も次第に薄くなっています。
そこで同校では、児童と地域との関係を密にし、地域と連携した防災教育を推進するべく「防災五人組」を結成しました。「防災五人組」は5人の児童で結成するチーム。集団登下校や避難訓練、学校行事などで一緒に行動します。
取り組みでは、地域と連携した合同避難訓練や合同防災訓練なども実施。児童が積極的に地域と絡みながら、お互いの防災意識が高まるなどの効果がありました。
気仙沼市立階上小学校の取り組み
気仙沼市立階上小学校では「地域と連携した安全・安心で防災に強いまちづくり」というプラン名で取り組みが行われました。
2011年に発生した東日本大震災で甚大な被害を受けた気仙沼市は、地域全体の防災意識が非常に強い地域です。
この取り組みでは、小学校・中学校・保護者・地域を巻き込んでの防災訓練や、小中学校で連携した防災教育の実施を行うなど、児童・生徒の輪を越えた防災取り組みを行っています。
今後は防災教育のさらなる充実を図り、地域や専門機関と連携した防災組織作りに力を注ぐ計画を立てています。
川口市立鳩ヶ谷中学校の取り組み
川口市立鳩ヶ谷中学校では「鳩ヶ谷中学校区防災対策チャレンジプラ2018」というプラン名で取り組みが行われました。
地域住民や小学校との合同防災訓練を通して、学校・家庭・地域の連携強化を目的に活動した点が同プランの特徴です。市の防災課や消防局に指導を仰ぎ、同校が避難所となったケースを想定した訓練を行っています。
各学校の立地により、河川の存在や地形、地質の違いなど起きやすい災害が異なります。川口市は低地が多い地形的特徴から、台風や豪雨による被害を受けやすい地域です。地域に根ざした防災訓練を作成して行うことは非常に効果的だといえるでしょう。
兵庫県立淡路高等学校の取り組み
兵庫県立淡路高等学校では「淡高ARCHプロジェクト~高校生が主体となった地域防災の取り組み~」というプラン名で取り組みが行われました。
この取り組みの特徴は、体験的な学びで得た成果を発信し、高校生主体の地域防災活動の実現を目指していること。地域住民に防災マップを配布するなど、防災に対する啓発活動を行うのは高校生です。生徒たちが主体となり、地域住民に防災情報を広めるところが特徴的です。
生徒たちが積極的に地域住民と関わりを持てば、自己有用感や主体性が高まります。教育的観点から見ても大きなメリットがあるといえるでしょう。
学校で防災取り組みを行うときのコツ
ここまでご紹介してきたように、全国各地の学校がさまざまな防災取り組みを行っています。その一方で、どうすれば防災を子どもたちに学ばせるか、取り組み方に悩んでいる学校も少なくありません。
防災対策は命を守るために欠かせない知識です。しかし子どもにとっては、災害に対する危機意識が大人ほど強くありません。
そこで以下では、学校で防災取り組みを行うときに、子どもが効果的に防災の知識を学ぶためのポイントをご紹介します。
生徒が理解しやすい内容にする
防災の知識を身につけるコツは、「楽しみながら学ぶこと」です。
防災の知識は、本来役に立ってはいけない知識だといえます。災害が起きないことを祈りながらも、万が一起きてしまったときに備えて、やむを得ず学ぶものなのです。
そのような「非日常の知識」をすらすらと苦もなく吸収できる方は多くありません。したがって、防災の知識をしっかりと理解して記憶するためには、ただの座学ではなく、楽しみながら学ぶことが重要になります。
これは生徒が防災の知識を学ぶ場合でも同じです。教室で表面上の知識を見聞きするだけでは身につきません。また内容が難しくなるほど、生徒の興味は薄れていきます。そのため楽しみながら災害時の役割を学んだり、防災知識を吸収したりすることが重要となるのです。
小中学校で取り組むのであれば「ゲーム感覚で行えるものにする」、高校で取り組むのであれば「自分たちが地域の防災リーダーとなって、地域住民に教えていく」というように、生徒の年代や特性に合わせてプログラムを作りましょう。
災害発生後に現場で活用できる知識を提供する
防災対策では、事前の対策だけでなく、災害が発生した後に必要な対応力を鍛えることも重要です。災害が起きてしまったときに、どう判断し、行動するかで生死がわかれることもあるからです。
避難経路の確認や、非常食の調理方法の習得など、災害発生後に役立つ知識は多岐に渡ります。
また各地域の地理的条件の理解も決しておろそかにはできません。「河川に挟まれているか」「低地が多いか」「地盤が弱いか」「山岳地帯か」など、各土地の地理的条件によって想定される災害の種類も変わるからです。
たとえば東日本大震災では、いかに早く津波のこない高台へ避難できたかどうかが生死をわけたことは、今なお記憶に新しいところでしょう。それに対して、京都のように昔の街並みが残る地域では、耐震性能が低く地震や火災に弱い建物がどの場所に密集しているか、街の構造を正しく見極めることが重要だといえます。
災害が発生した後の対策を教える際は、過去の災害の状況や地理的条件などをふまえて、どのような知識が現場で活用できるのかを十分に吟味しましょう。
無理なく防災取り組みを行う
防災取り組みを継続して行うためには、「無理のない計画であること」も肝心です。防災取り組みに膨大なコストを費やしてしまうことは、あまり合理的ではないからです。
防災に関するあらゆる知識を教育するのではなく、子どもたちが自分で考えるように促すことが、防災取り組みを長期的に継続させるコツです。知識を伝達するだけの取り組みは、専門家を招聘するのに費用がかさんでしまい長続きしません。
防災取り組みの予算を効率よく生かすためには、「2020年はプログラムA。2021年はプログラムB」というように、段階的に取り組むことも有効です。
生徒に聞いてもらうには楽しく防災取り組みを行うのも手!
子どもにどのように防災意識を身につけてもらうか。防災取り組みを子どもが主体的に行えるのか。これらは長年議論されてきた課題です。
昨今「楽しみながらゲーム感覚で防災意識を身につける」という方法が注目されています。IKUSAでは、楽しみながら防災取り組みができるプログラムを用意しています。主なプログラムをご紹介しますので参考にしてください。
防災運動会
防災運動会とは、防災に関する知識を習得できる運動会です。座学とは違い、実際に体を動かして、さまざまな競技を楽しみながら防災の知識を学べます。災害発生時に起こり得る緊急事態への対応力が問われる競技を行い、それまで防災に興味がなかった人でも防災に意識を向けるきっかけにするのが防災運動会の目的です。
防災運動会では、以下に挙げるような競技に参加できます。
- 水消化器を使って的を倒していく「防災クイズラリー」
- 人工呼吸や心肺マッサージなどの正しい対処法を学べる「防災障害物リレー」
- 制限時間内に謎解きを行って脱出する「防災謎解き」
- 緊急事態にどのような道具が有効なのかを学べる「防災借り物競走」
- 防災時にいかにチームワークが重要なのかを理解できる「瓦礫運び」
参加者が互いにゲーム感覚で競いながら防災知識を身につけられるので、学校行事としてだけではなく、地域住民や地元企業の社員など大人も巻き込んだイベントとしてもおすすめです。
防災運動会の資料ダウンロードはこちら防災運動会のお問い合わせはこちら
おうち防災運動会
「おうち防災運動会」は、防災運動会の「オンライン版」です。インターネット環境があれば、誰でも自宅で競技に参加できるのが特徴です。
おうち防災運動会ではインターネットを活用しながら、自宅で実践できる新しい防災アクティビティです。そのため防災運動会とは一味違う、次のような競技が楽しめます。
- 非常食となりうる食料を探す「おうち探検!非常食探索トライアル」
- VTRを見て間違い探しの要領で、防災についての間違いを正していく「防災間違い探しオンライン」
- 声を出すことなくジェスチャーだけで相手に物事を伝える「避難所ジェスチャーゲーム」
オフラインのイベントとは異なるヴァーチャルなゲーム性が、おうち防災運動会の大きな特徴といえるでしょう。
新型コロナウイルス感染症の影響で防災への取り組みが難しい時期だからこそ、オンラインで行う防災取り組みはとても有効です。
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防災ヒーロー入団試験
防災ヒーロー入団試験は、体と頭を使いながら、親子で防災に関するミッションをクリアしていくアクティビティです。
一般的に子どもは防災に対する関心が薄く、知識量も多くありません。そこでこのアクティビティでは、さまざまな課題やアクティビティを用意して、災害時にすぐに役立つ知識を身につけてもらいたいという想いで作り上げました。
実際に被災地などで大活躍した「防災スリッパ作り」、水消化器を使って的を倒す「水消化器射的」、迷路感覚で楽しめる「スモーキー迷路」、防災リュックに必要なものとそうでないものを間違い探し感覚で学べる「防災リュック間違い探し」など、体験型から座学型まで多種多彩な種目を親子で楽しめるのが特徴です。
子ども向けに作られている防災ヒーロー入団試験ですが、実際には子どもだけでなく大人も一緒に楽しめるので、家族イベントや地域住民との共同イベントなど、企画を色々とアレンジできる点もメリットといえるでしょう。
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防災謎解き
「防災謎解き」は、災害時に部屋に閉じ込められたという設定のもと、防災に関する謎を解きながら、ゴールを目指して密室を脱出するゲームです。
全国各地でこのような体験型、協力型の謎解きゲームが大流行しています。時代の流行りを積極的に取り入れた防災アクティビティは、子どもの好奇心を刺激できるので有効です。
防災謎解きは、ニーズに合わせて「防災謎解き初級編 揺れる会議室からの脱出」「オンライン防災謎解き 崩れゆく会議室からの脱出」「災害都市からの脱出」などさまざまなシチュエーションが用意されています。
制限時間によって実際の災害現場のような緊張感を味わえるのもポイントです。「自分たちで協力して考えること」を重視したアクティビティなので、子ども以上に大人が夢中になれるゲームだと評判です。中学生以上の生徒なら、防災謎解きのような知的なアクティビティのほうが盛り上がるかもしれません。
防災フェス
「防災フェス」は、防災に関するさまざまなコンテンツを用意した防災イベントです。
防災フェスには、防災運動会などのさまざまな体験型コンテンツを盛り込むことができます。
たとえば、防災知識をスタンプラリー形式で集めていく「防災ウォークラリー」、実際にどのような防災グッズがあるかを体験・購入できる「防災グッズ販売」、子どもたちと一緒に協力してロールプレイング感覚で防災を学べる「防災ヒーロー入団試験」などです。
単に見たり食べたりするだけでなく、頭と体を使いながら楽しく学べますので、子どもたちはもちろんのこと、保護者や地域住民、地元の企業・団体などと行う合同イベントとしてもおすすめします。
防災間違い探しオンライン
「防災間違い探しオンライン」は、VTRを見ながら、防災の観点から間違っていることを全員で探すオンラインアクティビティです。
キッチンに関する防災知識を学べる「キッチン編」、寝室や浴室、トイレなどに関する防災意識が学べる「寝室・浴室・トイレ編」など、場所ごとにVTRがあるのが特徴です。
災害がいつ起きるかは予測できません。外出している場合もあれば、家の中にいる場合もあるでしょう。一口に家の中といっても、キッチン・リビング・トイレ・寝室など、場所によって避難の仕方が変わります。場所に応じた対処法を、間違い探しを通じて学べるのが「防災間違い探しオンライン」なのです。
まとめ
防災取り組みの成功例に共通しているのは、防災をただ学ぶのではなく、アクティビティやイベントの一つとして楽しみながら、参加者の共通体験を通して学ぶという点です。
楽しみながらゲーム感覚で学べるアクティビティの中には、今回ご紹介した「おうち防災運動会」のように、オンラインでも実施できるプログラムがあります。
コロナ禍のなか、屋外で大勢が集合して行うアクティビティは開催しにくいのが現実です。
「子どもたちが楽しく学べるか」
「オンライン開催は可能か」
こういった視点を意識しながら、学校での防災取り組みに挑戦してみてはいかがでしょうか。

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