企業が災害の被害を最小限に抑えるためには、発災直後に行う初動対応をしっかりと定めておくことが大切です。
人間が飲まず食わずの状態で生きられるタイムリミットは72時間といわれていることから、初動対応は人命を守ることにつながるでしょう。また、迅速で的確な判断のもとに適切な初動対応をとれるかは、停止した事業の復旧や継続の成否を左右します。そのため、災害時に人命を確保し、事業を継続・早期復旧させるためにも、初動対応の策定は重要といえるでしょう。
とはいえ、災害時は予想していなかったことが次々に起こります。災害に備えてBCP(事業継続計画)を策定し、定期的に訓練していたとしても、いざという時はパニックに陥って冷静な判断が難しいかもしれません。災害で混乱しているなか、難しい判断を次々としながら適切な対応をすることは、非常に困難です。
そのため、初動対応はBCPとは別に細かく決めてマニュアル化し、社内に定着させておく必要があります。本記事では、初動対応の重要性や目的についてお伝えするとともに、初動対応マニュアルを作成する目的やBCPとの違いを解説します。また、初動対応マニュアルに必要な項目と準備しておくべき事前対策についてもお伝えします。
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初動対応とは
初動対応とは、災害発生直後の対応のことをいいます。初動対応で行うべきことは、「人命の確保」と「事業継続のための対応」の2つです。
災害時に最優先で対応するべきものは人の命であることから、初動対応では、最初に従業員や来訪者の安全確保と安否確認を行います。安全確保や安否確認が落ち着いたら、自社や取引先などの被災状況を確認し、事業の早期復旧・継続に向けた取り組みに着手します。
初動対応の目的と重要性
初動対応を行う目的は人命確保と安否確認です。地震や暴風雨などの災害が起きた時、最初に適切な対応をとれるかどうかは、その後の企業の活動に大きく影響します。初動対応を誤ると二次災害が起きたり、従業員や来訪者の命の安全が脅かされたり、企業が信頼を失ってしまう可能性があるでしょう。従業員や訪問者の安全を確保するだけでなく、企業の信頼や事業継続に大きく関わるため、初動対応について定めておくことはとても重要です。
適切な初動対応をとるためにも、自社にどのようなリスクがあるか、そのリスクによってどのような影響があるかを分析し、対応策を考えておくことが大切です。さまざまなリスクを想定し、落ち着いて対応するために、初動対応マニュアルを作っておきましょう。また、初動対応マニュアルを使って定期的に防災訓練などを行い、従業員の災害対応能力を高めておくことも重要です。
初動対応マニュアルとは
初動対応マニュアルとは、災害などのトラブルが起きた直後から、BCP発動までに行うことをまとめたマニュアルのことです。
初動対応マニュアルを作成する目的
初動対応マニュアルは、従業員の安否や被災状況を確認することが目的です。そのため、事業継続を目指すBCPのマニュアルとは別に準備しておくとよいでしょう。災害などが起き、混乱しているなかでもすぐ読めるように、わかりやすく簡潔にまとめることが重要です。チェックリストのような形にしてもよいでしょう。
また、災害などの発生時は、停電などでパソコンが使用できない可能性があります。マニュアルは印刷・製本して複数用意し、すぐ取り出せる場所に置いておくと安心です。
初動対応マニュアルとBCPの違い
BCPとは、災害時に事業を継続・早期復旧させることを目的とした事業継続計画です。災害時は人命確保や安否確認が優先されるため、BCPは災害発生と同時に発動するわけではありません。中核事業のボトルネックへの影響が大きい場合や、目標復旧時間内に中核事業の復旧が必要な場合に発動されます。BCPは、発災後、約4時間、長くても6時間以内を目安に発動するのが望ましいとされています。
初動対応マニュアルに必要な項目
初動対応マニュアルに必要な項目は、簡単に作成できるものと、分析が必要なため作成に時間がかかる項目があります。ここでは、初動対応マニュアルに入れておくと良い項目についてお伝えします。
災害対策本部の設置
災害が発生した時、被害を最小限に抑え、事業の早期復旧に取りかかるには、指揮系統の構築が必要です。災害時は混乱するので、バラバラな動きをしないよう、正確な状況を把握して情報共有をしてから、系統立てて指示を出す必要があります。
災害に備えて、災害対策本部の設置場所や構成メンバーを決めておきましょう。全体責任者、情報連絡係、消火・安全係、避難誘導係、救護係といった担当を決めておきます。出勤できない場合や負傷によって参加できないメンバーがいる可能性を考慮し、代行者を複数決めておくとよいでしょう。
また、災害などのトラブルは、就業時間外に発生する可能性もあります。就業時間外に発生した場合は誰を招集するのかなど、細かく決めておくと安心です。マニュアルには、災害対策本部のメンバーなど、意思決定に関する情報を記載します。どの程度の被害があった場合にBCPを発動するのか、基準を明記して、誰でもわかるようにしておくとよいでしょう。
被災状況の確認
オフィスにいることがそれほど危険ではない場合は、建物や設備の損傷状況を確認します。パソコンなどの機器に異常はないか、電話やメールで社外と連絡をとることはできるか、電気、水道などのライフラインは使用できるかをチェックします。取引先などに大きな被害がないかも確認しましょう。大きな被害があると、事業の早期復旧や継続が難しくなるかもしれません。
情報収集・情報発信の方法
どの程度の被害が、どの地域で起きたのか、交通網やインフラは停止しているのかといった情報の収集が災害時は必要です。テレビ、ラジオ、SNSなどで情報を集めます。従業員の安否確認の方法や自社や関連企業の被災状況を確認する方法、連絡先や連絡する際の優先順位などをまとめておくとよいでしょう。
また、自社の状況について情報発信をすることも大切です。従業員や来訪者の家族、顧客や取引先に向けて、自社への連絡手段を確保したり、社内の被害状況などについて情報を発信したりしましょう。連絡するべき顧客や取引先の連絡先をリストにしておくと、スムーズに対応できます。
従業員や来訪者の安全確保
従業員や来訪者の安全を確保するためには、救助や応急手当、緊急搬送、初期消火に使う道具の保管場所や使い方などの事前対策について、初動対応マニュアルに明記しておくことが大切です。加えて、避難時や待機時の対応、帰宅の判断、二次災害を防止するための対応方法についてあらかじめ決めておくことが、従業員や来訪者の安全確保につながります。
従業員や来訪者の安否確認
初動対応では、避難誘導とともに、トイレやエレベーターに閉じ込められている人がいないか、確認が必要なこともあるでしょう。さまざまな事例を想定して従業員や来訪者の安否確認を行うことは初動対応において重要です。
また、初動対応における安否確認では、事前に安否確認の方法を確立しておくのもよいでしょう。電話、メール、SNSなどを活用した従業員の緊急連絡網を作成したり、従業員が被災の状況を入力して送る「安否確認システム」を導入したりするのも一案です。
加えて、従業員本人だけでなく、従業員の家族の安否確認をするのもおすすめです。家族の無事が確認できると、落ち着いてオフィスの復旧作業に加われる従業員が増えるかもしれません。
従業員・来訪者の避難方法
災害時には、従業員や来訪者の安全確保をしなければいけません。水害、津波、土砂崩れ、火災など、命に危険が及ぶことが起きた場合には、すぐに避難する必要があります。そこで、あらかじめ、避難場所と避難経路を決めておき、従業員や来訪者の避難誘導手順を作成しておきましょう。従業員に避難経路や避難場所を周知しておき、誰でもその場所に行けるようにしておきます。避難経路を確保するうえで、初期消火や負傷者の救出が必要な場合もあるでしょう。そういったケースに備えて、道具の保管場所や手順を明確にしておくことも人命確保につながります。
来訪者の安全確保
来訪者がいる場合に備えて、来訪者の安全を確保する方法についてもマニュアルに取り入れましょう。来訪者は従業員と異なり、慣れない場所で被災しています。避難経路、避難場所を来訪者にアナウンスできるよう、従業員による誘導手順を決めておくことが大切です。百貨店やスーパーマーケットのように店内放送がある場合は、活用を検討しましょう。
待機時の対応
建物内で待機する場合には、水や非常食、照明器具などに加え、毛布や非常用トイレといった物資が必要です。スムーズに配給できるよう保管場所や配給手順をあらかじめ決めておきましょう。
帰宅可否の判断
災害時には、交通機関が寸断され、その日のうちに回復しない可能性があります。東日本大震災の時には、大量の帰宅困難者が出ました。従業員の帰宅を認めるかどうかは、難しい判断です。どうしても帰宅したいか、帰宅せずオフィスに泊まっても良いかを聞き取り、段階的に帰宅させるなど、手順を検討しておきましょう。帰宅するよりも待機した方が安全を確保できると判断される場合には、従業員や来訪者の意志とは別に待機指示を出すことも必要です。初動対応では、安全第一の判断が求められます。
二次災害の防止
二次災害を防止するための対策を講じることも、従業員や来訪者の安全確保につながります。災害時は、家具類が倒れたり移動や落下したりすることでけがをする可能性があるでしょう。また、ガス漏れや電源類のショートによって火災が起こる可能性も考えられます。そのため、ガス栓の確認・遮断を行ったり、避難や待機に必要な電源以外は切っておいたりといった対応をマニュアル化することが大切です。地域住民へ危険が及ぶと判断される場合には、住民への周知や避難要請、行政当局への連絡などが求められます。
生産設備の緊急停止方法
工場などの場合、火災や有毒物質の漏出を防ぐため、生産設備の緊急停止が必要になることがあります。二次災害が拡大することを防ぐためにも、手順や周知方法を決めておきましょう。混乱するなかでも正確に作業できるよう、手順書を作成したり、実際に訓練したりするのも有効です。工場内に、二次災害の原因となる化学物質などがある場合は、平時から保管場所を工夫する必要があります。
災害の種類ごとの初動対応
災害には、地震や風水害、火災、従業員の集団感染などさまざまなものがあり、それぞれ初動対応が異なります。そのため、それぞれ災害に合わせた初動対策を定めておくことが必要です。たとえば、地震による災害のほかに、津波や洪水、土砂災害の危険がある地域においては、風水害に対応した避難計画をマニュアルに入れておくようにしましょう。
インフルエンザウイルスやノロウイルスなどの感染症による集団感染において、まず行わなければならないことは感染拡大を防止することです。人から人への感染や、商品の汚染による感染拡大などを防ぐための初動対応の策定が求められます。
初動対応のために企業が準備しておくべき事前対策
初動対応を落ち着いて行うためには、災害に備えて細かいことを決めたり、用意したりといった事前対策をしておくことが必要です。企業があらかじめ準備しておくべき事前対策についてお伝えします。
役割分担
災害が発生した時、誰が何をするのかわからないと、現場は混乱して収拾がつかなくなります。経営陣や従業員の役割分担を決めておくことで、効率良く動くことが期待できます。情報を伝達するルートや連絡の方法も決めておき、スムーズに動けるようにしましょう。
オフィスや工場の耐震性の確認
地震などに備えて、オフィスの耐震性を確認しておくこともよいでしょう。耐震性が高ければオフィスを待機場所として使用することも可能ですが、耐震性が低ければ建物の外に移動した方が良いこともあります。そのため、耐震性を考慮した避難方法を検討しておくことが大切です。
家具・備品の転倒、落下防止
大地震の際、棚やロッカーなどのオフィス家具が倒れたり、積み上げた書籍や備品が崩れて落下したりすると、けがや設備の破損につながります。安全のため、オフィス家具をあらかじめ固定したり、置く場所を工夫したり、書棚の扉や引き出しにラッチをつけたりしておきましょう。
備蓄用品や救急用品の準備
交通手段の寸断により、従業員がオフィスに何日か泊まり込む場合も想定されます。必要な備蓄用品を、オフィスに準備しておきましょう。用意しておくと良いものに、飲料水や缶詰、乾パンなどの非常食、簡易トイレ、毛布、保温シート、医薬品などがあげられます。
定期的に防災訓練を行う
防災対策で大切なのは、自分の身を守る「自助」です。たとえば、オフィスで大地震が起きた際は、自分の命をどうやって守るか、日頃から訓練などを通じて考えておくことが大切です。そのため、大地震の際は、自身の判断で机の下にもぐって頭を守ったり、安全な場所に移動したりする必要があります。
- 揺れがおさまったら、ドアや窓を開けて、閉じ込められないように避難経路を確保する。
- 耐震性が弱い建物にオフィスがある場合には、揺れがおさまるのを待たずに、落下物に注意しながら、すぐ建物の外に出る。
こういった判断を自身で行わなければなりません。
多くの企業では、災害に備えて、防災マニュアルを作っていることでしょう。しかし、防災マニュアルを作成しているだけでは不十分です。実際に災害が起きると、落ち着いてマニュアルどおりに行動できないこともあるため、定期的に防災訓練を行い、いざという時に適切な対応ができるよう企業内に防災意識を浸透させましょう。
まとめ
初動対応を適切に行うには、ルールをマニュアルにして周知するなどの事前準備と、訓練によって社内に定着させる作業を欠かすことができません。災害が発生した時、どのようなことが起きるかを念入りにシミュレーションして、対策をマニュアルにまとめましょう。
初動対応で大切なことは、人命の保護と二次災害の防止です。災害後に事業を継続するためには、人員の確保が欠かせないため、事業の早期復旧や継続を目指すBCPと合わせて取り組む必要があるでしょう。初動対応とBCPのフローをあわせて防災訓練で社内に浸透させ、災害時に落ち着いて速やかに行動できるよう準備することが大切です。
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