2015年9月の国連サミットで、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。これは人間、地球及び繁栄のための行動計画として策定されたもので、17の目標と169のターゲットに分類されます。様々な目標が設定されていますが、その中に「防災」に関連する項目も記載されています。
今回は、自社の防災に役に立つ事例はもちろん、CSRの観点でも有効な防災の事例をご紹介させていただきます。
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SDGsとは?
近年、SDGsという言葉を耳にされる機会も非常に増えてきているかと思います。ここでは、まずSDGsとはそもそもどういったものなのかをご紹介したいと思います。
SDGsが目指しているもの
SDGsは「Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標」の頭文字をとった略称です。「誰一人取り残さない」持続可能でよりよい社会の実現を目指すために、世界共通の目標として2015年の国連サミットの「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられました。
SDGsは17のゴールと、169のターゲット(目標達成の指標)によって構成されています。さらにゴールは大きく3つのカテゴリーに分類されています。
- 社会
貧困や飢餓、教育といった社会の問題に起因するゴール
- 経済
エネルギーの有効活用、働き方の改善、不平等の解消などを踏まえて持続可能な発展を目指す経済観点でのゴール
- 環境
地球環境や気候変動への影響など環境に配慮したゴール
SDGsとは?わかりやすく17目標の概要、達成度や日本の順位、日本・世界の取り組み事例を解説
SDGsとMDGsの違い
SDGsの前身に、MDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)というものがあります。こちらは2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットにおいて採択されました。2000年から2015年までに世界が達成すべき共通目標として、貧困や飢餓の撲滅や普遍的初等教育の達成、ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上など、途上国の開発を中心とした8つの目標が設定されました。
MDGsの成果として、貧困や飢餓の撲滅という点で大きな功績を残しました。1990年から2015年までに10億人以上が極度の貧困から脱却し、その他の目標に関しても一定の成果を残しています。ただ近年の世界情勢の変化の中で、取り組むべき課題は多岐に渡り、私たちが解決すべき問題は途上国だけにとどまらなくなっています。
SDGsはMDGsの目標と比較すると、途上国だけではなく先進国を含めた全人類が取り組むべき目標として設定されています。また取り組むべき目標に関しても、8つから17つの目標として設定されており、近年の世界情勢を踏まえて、誰一人取り残さない包括的な目標として設定されています。
MDGsとは?SDGsとの違い、経緯や成果を解説
防災とSDGsの関係性
ここでは「防災」と「SDGs」の関係性についてご紹介させていただきます。企業の防災対策はもちろん、防災はCSRにも活用できるので、ぜひ確認してもらえると幸いです。
ゴール11:住み続けられるまちづくりを
SDGsの17のゴールには、11番目のゴールとして「住み続けられるまちづくりを」というものが設定されています。こちらは居住について焦点を当てた目標です。災害が発生した際には、いかに災害による被害を減らすかという視点が重要です。そのためには地域全体として、災害に対するレジリエンス(強靭性)を高める必要があります。
国連の報告では、2018年時点で世界の人口のうち、55%の人々が都市部に暮らしていると発表しています。2050年には都市部人口は68%に達すると予測されており、人口が増加する都市部の問題を解決することは非常に重要なテーマになっています。都市部に人口が増加することで、スラムの問題や大気汚染、廃棄物、災害リスクの増加など様々な問題が発生します。特に日本は災害大国なので、行政だけではなく、都市全体として災害リスクに備えた取り組みを行っていく必要があります。
仙台防災枠組2015-2030
「住み続けられるまちづくりを」のターゲットの中には、災害対策の目指すべき考え方として「仙台防災枠組2015-2030」という日本の方針が盛り込まれています。
「仙台防災枠組2015-2030」は、2015年に仙台で開催された第3回国連防災世界会議により採択されました。この枠組は東日本大震災の経験や教訓を踏まえ、世界の国々が防災や減災に取り組むことを目指しています。
また前身として、2005年に第2回国連防災世界会議により採択された「兵庫行動枠組」という阪神淡路大震災の教訓、経験を踏まえた枠組があります。この枠組が採択されてから10年間で、世界各国の取り組みが進み、いくつかの危険要因については死亡率が減少したという事例が報告されています。ただその一方で、災害による被害は引き続き甚大で、2005年から10年間で世界では70万人以上の命が失われ、2300万人の人々が住む家を失いました。また15億人以上の人々が災害による影響を受けています。そのため災害リスクをより削減するための枠組として「仙台防災枠組2015-2030」が誕生しました。
「仙台防災枠組2015-2030」の特徴は大きく3つに分類されます。
- 世界で初めて、災害による死亡者の減少を地球規模の目標で設定。
- 防災の主流化、事前の防災投資、ビルド・バック・ベター(より良い復興)などの新しい考え方の提示。
- 行政だけではない、女性や子供、企業など様々なステークホルダーの役割を明示。
従来の取り決めと比較すると、より先進的な内容となっており、各国が目指すべき防災のあり方が明示されている枠組です。
ゴール13:気候変動に具体的な対策を
環境保護の文脈で語られることが多い、13番目のゴール「気候変動に具体的な対策を」ですが、実は防災と非常に関連性が高い項目です。自然災害と気候変動は密接に関連しており、災害発生を抑制するためには、気候変動に対して取り組んでいくことが重要です。
この観点に対しては、すべての国々で自然災害に対するレジリエンスを高めること、国の政策や戦略、計画ベースで気候変動への対策を盛り込むことなどを目標としています。
現状、温室効果ガスの排出量は増加していく一方で、1990年と比較すると50%以上も増加しています。温暖化により気温が上昇すると、大気中の水蒸気量が増加します。大気中の水蒸気量が増加すると、豪雨が多発し、土砂災害や洪水氾濫といった災害を引き起こします。
国土交通省によると、もしこのまま日本の平均気温が2度上昇すると、降雨量は約1.1倍、洪水の発生頻度は約2倍になると試算されています。
パリ協定
SDGsはあくまで世界が目指すべき規範的なものですが、具体的に温室効果ガス削減目標の提出義務を負っているのが、2015年のCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定です。
パリ協定は京都議定書の後継にあたります。京都議定書は気候変動枠組条約に関する議定書として1997年に採択されましたが、温室効果ガスの削減目標は先進国のみが対象となっており、主要な排出国であった米国が参加していない状況でした。
一方パリ協定では、先進国、途上国の区別なく、各国が削減目標を掲げ、気候変動の対策に取り組んでいます。主要排出国である米国や中国を含めた、世界の温室効果ガス排出量の86%を占める国々が締結しています。
パリ協定は、産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑える。加えて、平均気温上昇「1.5度未満」を目指すことを目標にしています。また各国は5年ごとに削減目標の進捗を提出、レビューし、世界全体で取り組み状況を確認しながら進めていく体制が整えられています。
温室効果ガス削減を行い、気候変動の影響を抑えることが、自然災害の発生を抑制することにつながります。
企業で実施すべき防災×SDGs
ここでは具体的に防災とSDGsを絡めた事例をご紹介させていただきます。「仙台防災枠組2015-2030」で記載されている企業の果たすべき役割に沿った防災対策や、気候変動の影響を抑えるための取り組みなどを取り上げています。
社員や事業を守るための防災
企業の防災には大きく2つの考え方があり、「防災」と「事業継続」の考え方があります。「防災」は災害による人的被害、物的被害を最小化する考え方です。自社の社員の身の安全はもちろん、社内設備の被害を減らすという意味になります。「事業継続」は防災の考え方に加えて、企業活動の維持や早期回復を目的としています。多くのステークホルダーを抱える企業にとって、災害による事業停止の影響は計り知れません。だからこそ平時から、災害が起こった際に企業活動を継続できる備えを整えておくことが大切です。
「住み続けられるまちづくりを」のターゲットである「仙台防災枠組2015-2030」によると、企業の果たすべき防災上の役割は下記の通りです。
- 災害のリスク把握
自社の立地条件を踏まえて、どういった災害リスクが発生するのかを事前に把握しておく必要があります。自社の営業所や支店、施設の立地ごとに、ハザードマップを確認した上で、想定される被害はどういった内容なのかを事前に把握し対策を行います。もちろんすべての対策を行うことは難しいため、自社にとって影響度の高い拠点や、災害リスクから対策を立てていく必要があります。
- 従業員への啓発
災害がいつ起こっても対策できるように、常日頃から従業員に対しての訓練や啓発活動が重要です。
自社の防災計画やBCPをもとに、社内の防災担当者や、災害時に指揮を担う担当者を含めた訓練を行う必要があります。計画を立てて終わりにならないように、日頃の点検や訓練、改善などの対策を行っていくことが肝心です。
また、社員全体の防災意識の啓発として、株式会社IKUSAでは遊びながら防災を学べるコンテンツ「防災運動会」の企画・運営を行っています。
防災運動会は、防災に興味がない人に防災を届けることを目的したイベントです。
ユニークな運動会の種目を防災と組み合わせることで、防災に興味を持つ人を一人でも増やすことを目指しています。
種目は、防災の知識を問う「防災クイズラリー」や災害時の応急対応を自ら考える「防災借り物競争」などがあり、防災の事前準備から災害発生時といった、災害のフェーズごとに必要な知識をつけることができます。
防災運動会の資料ダウンロードはこちら防災運動会のお問い合わせはこちら
また、オンラインでもできる防災教育イベントとして開発されたのが、「おうち防災運動会」です。
参加者はビデオチャットツールを使い、仲間との協力や他チームとの競争を楽しみながら、防災知識を学びます。
家にいるからこそ見直すべき備蓄品や家具の配置などを考え直すきっかけになるイベントです。
社内イベントとしてはもちろん、社員の家族も一緒に防災知識を共有できるイベントとして、今注目を集めています。
おうち防災運動会の資料ダウンロードはこちらおうち防災運動会のお問い合わせはこちら
- 災害対策への投資
災害はいつか起こるものと考え、いかに災害時の被害を最小化するかという観点で、防災計画やBCP(事業継続計画)、社内備蓄などを進めておく必要があります。
災害対策への投資は助成金を利用できるケースもあります。助成金の詳細は下記の記事でご紹介しているので、ぜひ確認してみてください。
防災補助金・助成金一覧!企業のBCP・防災グッズ・燃料備蓄など
具体的な企業の防災への取り組みはこちらの記事でもご紹介しています。
防災担当者必見!企業の防災の取り組み事例5選をご紹介!
ここからは、実際に企業で取り組まれている防災×SDGsの事例をご紹介します。
事例1:自然災害の発生を抑制するための防災
大和ハウスグループの事例
大和ハウス佐賀ビルでは、電力を自給できるオフィスの取り組みを進めています。自然換気や井水、太陽熱を活用した空調システム、自然光を利用した照明など、徹底した省エネの取り組みを進め、従来と比較すると52%も電力使用量を削減しています。また屋上には、太陽光パネルと蓄電池を設置しているため、災害による停電時でも事業継続ができる仕組みが整えられています。省エネ化はもちろんですが、オフィスの住環境も非常に快適に設計されています。
上記以外にも自社で取り入れられる仕組みとしては、事業活動におけるCO2排出量を減らす、社内の照明をLED照明に変更する、ペーパーレス化を進める、社用車を電気自動車に変更するなど、身近なところから気候変動への対策を行っていくことができます。気候変動への対策を行っていくことで、自然災害発生の抑制につながるので、CSRと関連させながら積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。
事例2:地域と企業の関わり
三井住友海上火災保険株式会社の事例(PDF)
三井住友海上火災保険株式会社では、地域と連携した防災対策を進めています。災害発生時に東京23区等の大都市圏に勤務する社員に関しては、事務所残留を掲げています。それに伴い全社員に3日分の備蓄を準備しており、デスク下に保管する体制が整えられています。
また、千代田区と災害時の協定を締結しており、駿河台ビル(本館)、新館において帰宅困難者の受け入れを行っています。最大収容人数は1100人となっており、自社の社員だけではなく、地域で帰宅困難になった多くの方々に対して受け入れが可能です。
こうした地域と連携した取り組みを行うことで、地域全体の防災力向上はもちろんですが、自社のCSRの取り組みとしてもPRすることができます。
まとめ
今回は防災とSDGsの関係性についてご紹介させていただきました。最近話題に上ることが多いSDGsですが、防災においても非常に関連性の高い内容です。まずは地域の担い手として、各企業が災害の被害を最小化していく役割が求められています。そして同時に、災害発生を抑制するための取り組みとして、環境に配慮した事業活動を行うことも大切です。
自社の防災対策はもちろんですが、気候変動への対策や地域との連携など、幅広く活動していくことでCSRのPRとしても活用できる分野ですので、ぜひ積極的に取り入れてもらえると幸いです。
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学生時代から東日本大震災をはじめ、全国各地で災害が起こる度に、災害救援に赴く。現在は「日常の中に当たり前に防災意識を」という考えのもと、防災事業の立ち上げを行う。事業内容は防災をおしゃれに、もっと身近に感じられる機会を提供するための防災カタログギフト制作を行いつつ、防災系記事の執筆も担当。