自社の防災対策は万全でしょうか?近年は自然災害が増加している影響で、企業の災害リスクも高まっています。自然災害はいつ起こるかわからないため、ついつい後回しにしてしまいがちですが、「あの時に対策しておけば……」と後悔しないように、事前の対策が必用です。
今回は企業が実施すべき防災の取り組みや、具体的な事例についてご紹介させていただきます。
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企業で取り組むべき防災とは?
企業には法律で明記された安全配慮義務というものがあります。災害時でも従業員の身の安全を守る必要があるという内容ですが、実際に安全配慮義務を怠ったことで法的責任を追及されたケースもあります。
また東京都では「東京都帰宅困難者対策条例」というものが定められています。こちらの条例には「事業者に従業者の一斉帰宅の抑制と従業員の3日分の食糧等の備蓄についての努力義務を課します。」と明記されています。
首都直下地震など、大規模災害が発生した際に従業員を一斉に帰宅させることは、実は大きなリスクを伴います。公共交通機関が停止し、徒歩帰宅をせざるを得ない場合、火災や建物倒壊、群衆雪崩など、様々な二次災害に巻き込まれる可能性があります。そのため、従業員を無理に帰宅させるのではなく、社内で一時避難をするという考え方が大切です。
「防災」と「事業継続」
以前にこちらの記事でも簡単に紹介しておりますが、企業防災には大きく「防災」と「事業継続」の2つの考え方があります。
防災サービスを提供している企業4選。企業が取り組むべき防災対策とは
「防災」は災害による人的・物的被害を最小限にする考え方です。社員の身の安全を守るために、防災訓練や社内備蓄、建物の耐震補強などを日頃から行うことで、災害による被害を減らすことを目指しています。
「防災」は従来からある考え方ですが、東日本大震災をきっかけに日本でも事業継続計画(BCP)を策定する企業が増加しました。
事業継続計画(BCP)とは災害が発生した場合でも事業が存続できるように、あらかじめ計画を立て、対策をしておくという考え方です。事業継続計画(BCP)では、災害発生前に経営において主要となる業務を選択し、最優先で復旧するべき事業所や工場などの施設について優先順位をつけておきます。その優先順位に沿って、限られた資源を投下し、早期復旧を目指します。
こうして対策を行っておくことで、主要業務の事業停止に伴うリスクを最小限にすることができます。
なぜ防災対策が進まないのか
企業の防災は法律や条例で定められているとお伝えしましたが、なかなか進んでいないのが現状です。特に中小企業では事業継続計画(BCP)の策定状況はわずか15.5%となっています。
事業継続計画(BCP)を策定しない理由としては、「スキル・ノウハウの不足」、「自社では特に重要ではない」などが上位の回答としてあげられています。
経営上の課題としてもまずは売上向上やシェア拡大、人材育成を掲げる企業が多く、防災対策まで手が回っていない現状が見受けられます。
ただ近年の災害のケースを見ていくと、どの企業も決して他人事ではない状況になっています。
2018年に発生した西日本豪雨は、西日本を中心とした全国11都道府県で甚大な被害をもたらしました。この西日本豪雨災害では、死者数は約200名以上、中小企業の被害総額が約4700億円と、近年発生した災害の中では非常に大規模な災害です。
そのほかにも、被災したことにより給与を支払うことができず、従業員を全員解雇せざるを得なくなったケースや、事業の停止に伴い顧客離れが発生するケースなどが発生しており、災害は企業に様々な影響を及ぼしています。
中小企業庁│中小企業の防災・減災対策に関する 現状と課題について(PDF)
オフィスの防災対策
災害による被害を減らすために、まずは自社の防災対策を高めていくことが大切です。ここでは、一日の大半の時間を過ごすオフィスの防災対策を中心にご紹介させていただきたいと思います。
- 周辺リスクや避難経路の確認
まずは行政が発行している市区群ごとのハザードマップを確認します。自社の拠点の立地から、どういった災害リスクが拠点ごとに発生するのかを事前に把握することが重要です。国土交通省が運営しているハザードマップポータルサイトでは、住所を入力することで周辺の災害リスクを確認することができます。
ハザードマップで災害リスクを把握した後、自社のオフィスの避難経路を確認しておく必要があります。出口や通路、階段など、避難経路に物が置いてあることで、スムーズに避難できないケースもありますので、定期的に確認するようにしましょう。
- オフィス家具の固定
近年発生している地震の負傷割合のうち、30%~50%は家具類の移動・転倒・落下が原因によるものです。また、高層階になるほど、家具類の移動・転倒・落下は発生しやすくなる特徴があるので、注意が必要です。
まずは身の回りの備品・家具類の固定や耐震補強を進めていくことが重要です。災害が発生した際に、普段作業をしているデスクの周辺に大型の家具がないか、コピー機やキャビネットの固定が十分か、避難する際に通路を塞ぐ家具の配置になっていないかなど、できるところから進めていきましょう。
- 社内備蓄
基本的には東京都帰宅困難者対策条例で示している通り、社員1人当たり3日分の備蓄品を用意するのが基準になります。
水は1日3リットル。可能であれば数年は長期保存ができる水を準備しておくと、買い替えの手間やコストを削減できるのでおすすめです。
主食はアルファ米やレトルト食品、乾パン、缶詰など、こちらも長期保存できるものを選ぶようにしましょう。
その他、生活していく上で必要な携帯トイレや毛布(寝袋)などの備蓄もあわせて行っておくことが大切です。
保管スペースの削減や、災害時の備蓄品の分配にかかる労力を減らすために、事前に社員ごとに備蓄セットを配ることもおすすめです。
- 役割分担
普段の防災訓練や、社内備蓄、点検作業などは防災担当者が行いますが、災害時には防災担当者だけでは対応することができません。初期消火、安否確認を含めた情報連絡のとりまとめ、避難誘導、救出・救護など誰が何を担うのか、その担当者が対応できない場合は、代役を誰が担うのかなど、事前の想定と日々の訓練が重要です。
- 安否確認
外出先で被災した場合の安否確認方法を社内で定めておく必要があります。電話やメール、トークアプリ、災害用伝言ダイヤルといった対応はもちろんですが、最近は安否確認システムを導入する企業も増加しています。
- 防災訓練
計画や備蓄などの準備をいくら行っても、実行できなければ意味がありません。日常から社員に対しての防災訓練を行い、防災意識の啓発や、対応策を学んでもらう必要があります。
防災訓練では、防護、避難、初期消火、救出・救助、応急手当、実際の災害を想定した図上研修(DIG)などがあります。まずは社員に防災の興味を持ってもらうための取り組みとして、楽しみながら実施できる防災訓練を導入することもおすすめです。
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防災への取り組み事例
ここでは、企業の防災への取り組み事例を、具体的にご紹介します。自社での防災の取り組み方がわからない方は、ぜひ下記の企業の事例を参考にしていただけると幸いです。
株式会社ディスコ
こちらの会社は、「安心して取引できる会社」「安心して働くことができる会社」を目指して、事業継続計画(BCP)に力を入れています。事業継続計画(BCP)の実行には、従業員の安全はもちろんのこと、従業員の家族を守ることが大切だという考えのもと、従業員の家族に対しても防災意識の向上を目指しています。この方針の背景には、災害時においても従業員が出社しやすくできる環境を整えることが必用不可欠だという考えに基づいています。いくら計画を事前に策定していても従業員の家族が被災することで、出社が困難になり、災害対応はもちろん、事業の継続ができなくなります。そのため、従業員の家族に対して防災意識を高めてもらう取り組みとして、会社見学会兼防災グッズの展示イベントを行っています。
このイベントでは、普段あまり手に取る機会のない防災グッズを触って体感できるようになっており、なぜ防災対策が必要なのかという説明も行っています。そして参加者には、自分に必要な備蓄品が一目でわかるワークシートを記入してもらうことで、防災意識の向上を図っています。
森ビル株式会社
六本木ヒルズをはじめとした様々な都市開発事業を行っている会社ですが、防災に非常に力を入れています。この会社は都市型デベロッパーとして、災害時に「逃げ出す街ではなく、逃げ込める街」を目指しています。建造物の耐震構造はもちろんですが、独自のエネルギープラントによる安定的な電力供給、民間最大規模の約10万人の備蓄品の保管など、地域の防災拠点としての機能を目指しています。
また、災害時の対応も迅速に行うべく、洗練された防災組織体制が整えられています。まず災害がいつ起こっても迅速に情報収集し、災害対策本部を立ち上げられるように、管理職社員1名が必ず宿直対応し、有事に備えられるようにしています。また本社である六本木ヒルズから2.5㎞圏内に防災要員100名分の社宅を備えており、いざという時にいつでも動ける体制を整えています。
医療法人社団洛和会
こちらは介護施設を運営している法人ですが、独自の研修を行い防災力向上に努めています。通常介護施設では、火災などによる被害を削減するため、消防法に基づき年2回の防災訓練が義務付けられています。しかし、年2回の防災訓練だけでは、防災力向上につながらないため、2カ月に1回の自主的な防災研修を取り入れています。研修の内容としては、災害図上研修(DIG:Disaster Imagination Game)を実施しています。内容はワーク形式で行うプログラムになっており、施設の平面図をもとに、防災地図を作成します。防災地図は施設の防災設備(消火器やスプリンクラー、誘導灯、防火扉など)や、入居者の状況、職員の人員数などを記入します。その情報を記載した平面図をもとに、地震や火災が発生した際に、職員がどういった対応をとるかを疑似訓練できる研修プログラムです。
株式会社マイヤ
こちらの会社は岩手県沿岸部を中心にスーパーマーケットを運営している会社ですが、「地域のライフライン」としての使命を果たすべく、防災に力を入れています。東日本大震災の津波による被害で、6店舗を失うことになりましたが、日頃の火災防災訓練や防災マニュアルの整備により、従業員、顧客ともに1人の犠牲者も出ませんでした。しかし、本部に設置していたシステムサーバーが、津波により流されてしまったため、すべての営業データが喪失することになりました。営業データをもとに、棚割りや商品投入計画を立案していたため、復旧後も十分な販売計画を策定することが難しい状況になりました。現在は東日本大震災の経験を踏まえて、デジタルデータの保管に関しては、津波リスクのない内陸部にバックアップサーバーを設け、データの二重化を進めています。
第一資料印刷株式会社
こちらの会社では、地震発生3日以内に受注件数の30%を復旧することを目標に事業継続計画(BCP)を策定しています。30年以内に70%の確率で発生すると予測されている東京湾北部地震の被害想定をもとに、供給体制をどう賄うかが想定されています。自社と同規模の印刷事業者かつ、同時被災の少ない地域の事業者と提携を進めることで、発災時でもすぐに代替生産が行える体制を整えています。
まとめ
災害はいつ起こるかわからないものですが、「あのときに対策していれば……」と後悔しないように、日頃からの準備を行っておくことが何よりも大切です。
今回の記事では、そもそもなぜ企業が防災への取り組みを進めるべきなのか、そして実際にどういったことをすべきなのかをご紹介させていただきました。
自社の事業存続のリスクや、従業員の身の安全を守るためにも、これを機にぜひ小さなことから準備を進めていただけると幸いです。
防災士監修の防災マニュアル「担当者必見 企業向け防災完全ガイド」とは?
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学生時代から東日本大震災をはじめ、全国各地で災害が起こる度に、災害救援に赴く。現在は「日常の中に当たり前に防災意識を」という考えのもと、防災事業の立ち上げを行う。事業内容は防災をおしゃれに、もっと身近に感じられる機会を提供するための防災カタログギフト制作を行いつつ、防災系記事の執筆も担当。