ICTサービスは防災や減災への取り組みの一つとして導入されています。しかし、どのように活用されているのか知らない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、防災・減災におけるICTサービスの活用事例や課題点などについて紹介します。ICTサービスに関心がある方や防災・減災への取り組みが知りたい方はぜひ参考にしてみてください。お問い合わせする
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そもそもICTとは
防災・減災におけるICTサービスの取り組みについて説明する前に、まずはICTの基本情報から理解を深めておきましょう。
ICTとはInformation and Communication Technologyの略称であり、日本語に訳すと情報通信技術です。通信技術を活用したコミュニケーションを指しており、インターネットを経由した産業やサービスなどを指します。
政府も積極的に取り組んでいる
ICTに関しては、積極的に政府も取り組んでいます。例えば、総務省の場合、「ICT生活資源対策会議」や「スマートプラチナ社会推進会議」といった成長戦略を実施。また、さまざまなICTサービスの普及・促進を行っています。
防災・減災でICTサービスが必要である理由
防災や減災でICTサービスが必要である理由としては、何らかの災害があった際にすぐ情報を届けられることが挙げられます。情報をいち早く届けることで、人族な避難や災害による死傷者の削減などに繋げられます。
以前は大きなスピーカーなどを使って街中に情報を知らせていました。しかし、日常的にインターネットに触れている人が多い昨今では、インターネットを使った情報発信のほうが有効的です。
防災・減災におけるICTサービスの活用事例
ICTの基本情報に触れた上で、次に主な事例をいくつかピックアップして紹介します。
1.「河川情報システム」で河川をチェック
岐阜県は他の都道府県と比べて、山間部の降水量が多い地域。そのため、「河川情報システム」というICTサービスを導入して住民から水害を守っています。
NTT西日本がサポートしている「河川情報システム」は、県内の河川ごとに設置されている雨量計や水位センサーなどが計測したデータを収集し、WEBサイト上で公開。地図情報システムとも連携しており、地図データと組み合わせた統合的な表示を実現しています。
また、「河川情報システム」にはスマートフォン版があります、スマートフォン版の場合は、GPS機能と組み合わせることが可能。GPS機能を活用することで、今自分がいるところが安全なのかどうかチェックできます。
2.「防災Wi-Fi」で災害時でも情報収集
宮崎県小林市は霧島連山の噴火被害や大雨被害などを受けた地域であり、住民が災害に巻き込まれたケースもあります。これを踏まえて生まれたのが「防災Wi-Fi」です。
「防災Wi-Fi」はNTT西日本がサポートしているICTサービスであり、2017年4月からスタートしました。優先度が高い避難場所にフリーWi-Fiを設置。常に開放しているWi-Fiであるため、日常的に使用できます。
もちろん、「防災Wi-Fi」であるため、災害時にも役立ちます。2021年3月現在、市役所や中学校、公園など40箇所以上の場所にフリーWi-Fiを設置。小林市における緊急時の連絡手段を徹底的にフォローしています。
3.「防災Infoひがしそのぎ」で緊急情報をすぐ確認
災害情報の中には、避難場所の案内といったような地元向けに伝えられる内容もあります。伝える手段はいくつかありますが、長崎県東彼杵町の場合はICTサービスを活用して緊急情報を伝えています。
長崎県東彼杵町が行う「防災Infoひがしそのぎ」は、IP通信網やモバイル回線などを使って住民のスマートフォンや専用の受信機に災害に関する情報を同時に伝達。Jアラートとも連携しているため、全国的な緊急情報が起きてもすぐに確認できます。
その上、「防災Infoひがしそのぎ」には既読機能も搭載。いつメッセージをチェックしたのか確認できることから、住民の安否確認や高齢者の見守りにも活用できます。
ちなみに、こちらも上記で紹介した「河川情報システム」や「防災Wi-Fi」と同じNTT西日本がサポートしています。
4.「エリアメール」で一斉送信
「エリアメール」は、NTTドコモが行っているICTサービス。特定の地域にある携帯電話に対して緊急情報を一斉送信するというものであり、導入することで緊急情報の伝達率が向上しました。2012年9月末の段階では1300以上の自治体が取り入れており、幅広い場所で「エリアメール」による災害対策が行われています。
「エリアメール」の仕組みとしては、まず地震や津波といった情報を受け取った気象庁や地方自治体がエリアメールのセンターへ報告。その後、災害の対象地域に当てはまる住民の携帯電話に対して緊急情報が届けられます。あくまで特定の地域だけに送られるものであるため、地域外の携帯電話には連絡が届きません。
5.「つむぎプロジェクト」で身元不明者の削減
「つむぎプロジェクト」は、NTTPCコミュニケーションズなどの企業や団体によるプロジェクト。東日本大震災における被災地復興支援および社会貢献の考えをもとに誕生したものであり、被災地が抱えている諸問題解消を目指しています。
このプロジェクト内では、身元確認システムや遠隔授業システムなどのICTサービスが活用されています。導入の効果も出ており、身元確認システムの場合は320名もの身元不明者が減少しました。
遠隔授業システムは、地域の子どもたちとの交流機会を設け、その後の学習支援も行っています。
防災・減災におけるICTサービスは数多くある
上記で紹介したもの以外にも、防災や減災に関するICTサービスは数多くあります。具体的には、「静岡県防災システム」や「IBM 災害対応支援システム」、「シスコ ヘルスプレゼンス」など。今回紹介できなかった事例は、総務省が発表している「防災・減災等に資するICTサービス事例集」という資料に掲載されているため、ぜひそちらをチェックしてみてください。
防災・減災におけるICTサービスの課題
防災・減災におけるICTサービスはいくつもありますが、それでも完璧なものとはいえません。なぜなら、課題点があるためです。主なものとしては、以下のようなことが挙げられます。
ICTサービスへの予算
ICTサービスの開発や運用には、どうしてもお金がかかります。その上で予算は重要ですが、どれだけ必要なのか計算することは難しいものです。なぜなら、災害が起きる日時や規模を事前に予測できないため。予測できないがゆえに費用対効果が説明しにくく、十分な予算の確保が難しいのです。
セキュリティの扱い方
ICTサービスにおいて、セキュリティの扱い方は切っても切れない存在です。仮にセキュリティの扱い方に慣れていない人が担当者となってしまった場合、不適切な行動により、個人情報が流出したりシステムが動かなくなってしまったりするなどの問題が起きるかもしれません。
近年ではサイバー犯罪といった背景から、個人情報のセキュリティが厳格なものへとなっています。しかし、災害が起きた場合に人命よりもセキュリティを優先することはほぼないでしょう。そのことを考えると、災害時におけるセキュリティの扱い方も考えておく必要があります。
BCPとの連携
BCPというのはBusiness continuity planningの略称で、日本語にすると事業継続計画を意味します。地方自治体の中には、BCPとICTサービスの連携がうまくできていないところがあります。もしきちんと連携できていなければ、災害時にICTサービスを活用できないかもしれません。
連携に関しては、BCPだけではなく警察や消防との連携も大切。それらとICTサービスの連携もきちんとできていなければ、有効的に活用できない可能性があります。さまざまなところと連携してこそ、ICTサービスの効果が発揮されやすくなります。
ICTは防災・減災以外にも活用されている
ICTサービスは防災・減災だけに使われているわけではありません。その他の分野でも、ICTサービスを駆使した取り組みが行われています。
そこで最後の項目では、防災・減災以外の分野におけるICTサービスの活用について紹介します。
ICT×教育
ICTサービスと教育の組み合わることで、生徒の授業に対する関心度が向上したり、効率的に授業を進めやすくなったりするメリットがあります。その上、教員間における情報共有もしやすくなるという利点も。福岡県福岡市を例として見てみると、すべての普通教室に無線LANや指導者用のタブレットなどを設置しています。
ただし、ICTサービスと教育の組み合わせには問題もあります。主な問題は、端末を購入するコストがかかることや管理する手間がかかってしまうことなど。また、生徒がすぐにインターネットで調べることで想像力を低下させてしまう恐れもあります。
ICT×土木
土木業界にもICTサービスが導入されています。ICTサービスを取り入れることで得られる利点としては、測量時間の短縮化や3次元データのさらなる有効活用化など。このような土木業界におけるICTサービスの全面的な活用は、i-Constructionと呼ばれています。
i-Construction自体は国土交通省が推し進めており、特設サイトも開設。また、毎年i-Construction大賞を決めて、ICTサービスを用いた土木業界の生産性工場を目指しています。
ICT×地方創生
地方創生におけるICTサービスは、さまざまな自治体での成功事例があります。例えば長野県塩尻市の場合、センサーネットワークを活用した鳥獣被害対策を実施。水田周辺に獣検知センサーや罠捕獲センサーを設置し、罠に害獣が引っかかった場合は農家や猟友会にメールが届きます。
この取り組みは大きな成果を出しました。塩尻市の北小野地区では、実施して2年目で被害面積が0となり、稲作の収入が例年の約7倍に上昇しました。
防災・減災とICTサービスは重要な関係
今回は、防災・減災におけるICTサービスの活用事例や課題点などについて紹介しました。記事内で触れたように、さまざまな自治体で防災や減災に関するICTサービスが導入されています。いくつかの課題があるものの、さらに防災や減災に関するICTサービスの活用が広がっていくでしょう。
参考サイト:

旅行系からビジネス系に至るまで、幅広いジャンルを執筆するWebライター。国内外を旅しながら、記事を書いています。