防災コラム
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「防災は21世紀を生きていく上で欠かせない危機管理」兵庫県立大学教授・木村玲欧

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「防災は21世紀を生きていく上で欠かせない危機管理」兵庫県立大学教授・木村玲欧

こんにちは、あそび防災プロジェクト専属ライターのJJです!
このたび、兵庫県立大学の教授・木村玲欧様にインタビューをさせていただきました。

研究されている防災心理学・防災教育学の内容や、教育・訓練の視点から見た日本の防災の課題について、お話を伺いました。

★木村玲欧教授のホームページはこちら
https://www.u-hyogo.ac.jp/shse/rkimura/

現在行っている研究について

−まずは、現在行っている研究についてお聞かせください。

木村様)私の専門は防災心理学・防災教育学です。いわゆる地震学、火山学といった理学や、建築学、土木学のような工学とは違う専門で防災を研究しています。 

防災心理学からお話ししますと、人間の行動は、日常と災害時とでは異なります。

突然の環境変化で、頭が真っ白になり心理パニックになってしまうなかで、直後の命を守る行動や、避難行動、救助・救出という、普段とは全く違う心理状況や取るべき行動が発生するので、普段やり慣れていないとうまくできなかったり…………。そういった、災害直後に加えて、どう人生や地域社会を立て直していくかという長期的な復旧・復興までを含めて研究しています。

つぎに、防災教育学についてですが、例えば学校や地域の防災訓練、企業の研修など、防災を学ぶ機会はいろいろあります。災害が起きてからゼロの状態で考え始めても間に合わないので、事前にしっかりと学習する必要があります。

日常の訓練、教育、研修で防災を学んでもらうには、どんなコンテンツを提供したら良いのか。どんな仕組み、仕掛けを使うと、より訓練に参加してくれるのか。どうすれば防災を自分のこととして捉え、「わがこと」として思ってくれるのか。そういったことを研究しています。

 ★兵庫県立大学木村ゼミホームページ
https://www.u-hyogo.ac.jp/shse/rkimura/zemi/index.html

 

−防災心理学と防災教育学は関連性が強いのでしょうか? 

木村様)はい。心理学と教育学というのはどちらも人間を研究対象としており、人間の心や行動を科学的に実践的に把握する学問ですので、親和性は高いです。

僕の場合は、心理学的な立場で明らかにしたことを教育学的な立場で実践している、という感じですね。

 

−なるほど。防災心理学や防災教育学は、いつ頃から学問として体系化されたんでしょうか? 

木村様)これらの学問は、日本においても世界においても、体系化された学問としてはまだまだできあがっていません。新しい学問なのです。

 

−木村教授たちが第一人者という感じでしょうか?

 木村様)第一人者というのはあまりにも偉そうですが。どちらかというと一生懸命、そのような学問を作ろうとしているところです。

 阪神・淡路大震災が1995年に発生しましたが、これは、いわゆる現代の発展した都市で起きた初めての超巨大災害だったんです。

当時は、6000人以上の方が亡くなるような大きな災害が大都市で起こることは衝撃的で、「インフラや社会制度など複雑に入り組んだ現代都市の中で地震が起きると、こんなにも人々の命や生活にさまざまな被害を与えたり支障をきたしたりするんだ」ということに多くの人が気づいたんです。

それまでは、「地震が起きても、建物や構造物を強くすれば被害を防げる」と多くの人が思っていました。「もはや日本で地震が起きても大丈夫」と専門家でも言ってくらいでした。私たちは、現代都市で地震が起きるとどうなるのかというのを、まだ知らなかったのです。

 そんな中、阪神・淡路大震災が起きて、防災について深く考えていかなきゃいけないという世の中の流れが生まれました。

もちろん地震などの観測網を整備したり、構造物を一層強くしたりといったこともされていま。そしてもう1つ、人間の心理や行動を理解した上で、「次の世代に、1人1人の災害時の対応力を上げていくという視点からも防災を伝えていかないと、次の災害が起きたときにまた多くの命が奪われてしまう」という考えも浸透するようになってきました。このような背景から、今の私が行っているような研究が発展してきました。

しかし、阪神・淡路大震災から25年ではなかなか学問の体系化には至りません。またいわゆるメジャーな心理学の分野ではないので、「防災心理学」という名前で研究を行っている人って日本で5人いないぐらいなんです。

 参考になる研究が少ないので1から理論をつくりあげていかなければならない大変な面もあれば、最前線としてフロンティアでいろんなことを研究できて、それが人々の役に立っているなぁと実感することも多いので、やりがいはあります。でも難しいといえば難しい分野ですね。

 

−木村教授自身が防災心理学・防災教育学を研究しようと思ったきっかけは何ですか?

木村様)阪神・淡路大震災がきっかけでした。僕の実家は神奈川県で、当時は実家から通う大学生だったのですが、親戚が兵庫県の西宮にいて、ご自宅が全壊してしまったんです。そして、疎開のような形でおばさんが私の家にしばらく避難して来られました。

やはり震災の影響は大きくて、もともと結構明るい方だったのですが、やはり震災後は、部屋からも出てこられないくらいしばらく塞ぎ込んでしまって…………その時は本当に人が変わったような印象でした。 

その様子を見て、災害はここまで人の心を痛めて、人によっては人生も左右してしまうものになるかもしれない、と感じたのです。

そして、心理学で災害時や防災に関する人の心や行動について研究したいと思い、京都で研究をやっている先生がいらっしゃると知り、大学院から学びはじめました。

今だからこそPTSDASDなどの言葉が世の中に広まっていますし、「心のケア」という言葉も一般的に使われていますが、「心のケア」という言葉もこの震災以降に広がったんですよね。

 ★NHKスペシャル 阪神・淡路大震災25年「あの日から25年 大震災の子どもたち」
(木村教授が、NHKと共同でアンケート調査を行いました)
https://www.nhk.or.jp/kobe/shinsaisonogo25/

日本の防災の課題

−今感じている日本の防災の課題はございますか?

 (木村様) 防災に関する課題はたくさんありますが、私の専門に引きつけて考えると、私たちが21世紀をこれから生きていく上で考えなくてはならないのは、「自分ではない誰かが自分の命や暮らしを守ってくれるわけではない」ということです。

 地震では、南海トラフ地震や首都圏直下型地震の発生が心配されていますし、風水害も地球温暖化によって毎年のように日本を襲っています。

「自然の側が変わってしまった今、人間の側が自然に対応していかないと、21世紀を生き残ることはできない」というのが基本的な考え方の背景にあります。

 南海トラフ地震にしても、21世紀半ばまでに起きる可能性が70%とも言われています。風水害に関しても、7月には熱帯のスコールのような雨が降り、9月はとんでもない風が吹き荒れるという事実を、私たちはすでに毎年のように目の当たりにしています。

風水害については「毎年7月と9月は人の命を奪う大変な時期だ」

これくらい危機感持って対策をしていかなければならないと思います。 

21世紀は建物だけですべての被害を防ぎ切れる時代でもないですし、被害を受けた途端に救急車や消防車がやってきてくれるわけでもないんです。

 災害について、「人生で一度も起きないかもしれないし、逃れられたらラッキー」くらいに思っている人もいるかもしれませんが、これからは、誰しも死ぬまでに数回は、命の危険に間近にさらされる災害を経験すると思います。

 例えば病気に対する健康管理、犯罪に対する防犯のように、災害に対する防災のことをしっかり危機として、リスクとして取り組んでいく必要があるのです。

 ここで重要なのが、「わがこと意識」という専門用語です。他人事ではなく自分自身のことだと、教育や訓練のなかでしっかりと持つことが今の私たちには求められています。。

 災害は、病気や犯罪といった危機ほどには頻繁に起きないので、人間の優先順位としては常に下になってしまいます。病気や犯罪、人間関係、お金の管理といったより日常で発生する危機と比較したとき、災害が優先順位で上に来ることはないんですよ。

 人間は優先順位が高い方から「わがこと意識」をもって対策を行っていくので、防災はついつい後回しにしているうちに、結局「やらない」。

しかし、災害は1回でも起きると、命や大切なものが一瞬にして失われてしまう可能性があります。

 教育や訓練で学んで「わがこと意識」を上げるきっかけをしっかり作ってあげないと、誰も防災をやらないし、すぐに順位が下がってしまいます。

 このように災害に対してうまく備えることができない人間の特徴を理解した上で、どういった教育や訓練をしていくかが、一番大切な問題だと感じています。

 

−定期的な訓練で、防災への意識は上がるものなのでしょうか?

木村様)訓練や教育を繰り返し行うことで、人の防災への「わがこと意識」は上がります。

 そして大事なのは、「わがこと意識」をいかに本番まで維持するかです。

ニュースで災害の映像を1回2回見るくらいでは、「怖いな」と思っても、それほど印象には残らず、なかなか「わがこと意識」は上がりません。意識が上がったとしても、少し時間が経てばまた元に戻ってしまいます。

 しかし、教育や訓練といった仕組みのなかで災害の大切さを訴えれば、防災への意識や優先順位は大きく上がりますし、継続的に教育や訓練行えば、意識は維持されていきます。

これから行っていきたいこと

−これからやりたいことはありますか?

 木村様)特に防災教育・訓練について話をすると、1つ目は学校の防災教育、2つ目は効果的な防災訓練のあり方を見つけることです。

 1つ目で「学校」を選んでいるのには理由があります。

というのも、21世紀において防災はもはや「しつけ」や「振る舞い」のようなものだと考えているからです。

 学校は体系的に物事を教えることができる仕組みであり、子供たちは必ず学校を通過して物事を学び、成長していきます。このような学習の場でいかに防災教育をやってもらうかということが大切なんです。

 実際に学校現場に行き、総合学習や理科、社会、数学、国語などで防災を取り上げてみませんか、と先生方に提案します。現在、防災教育プログラムを全国のいろいろな先生方と開発しています。子どもたちに実践してもらって教育効果の測定をして論文にまとめることもあります。

 2つ目の「効果的な防災訓練のあり方」についてですが、こちらはさらに2つに分けられます。

 1つは、日常を生きている人に、災害という非日常を意識してもらうのは難しいなかで、「どうすれば防災を意識してもらえるのか」を考えることです。

 「災害は危ないですよ」くらいの呼びかけではやっぱり危機感は持てないんですよね。非日常の災害が起きると、こういうことが起きて、こういう人生や生活への不都合があります、っていうのをいかに科学的に説明して理解してもらうか、そして、「わがこと意識」を持ってもらうかが、課題ですね。

 2つは、効果的な防災コンテンツの開発です。

私は全国あちこちで防災訓練を見せていただいてますが、実際に災害が起きたときの判断につながらない、意味がほとんどない防災訓練って結構多いんです。

 訓練を行うには、「学習目標」「学習のねらい」をしっかり決めることが大切です。

何を学んでほしくてこの訓練をやっているのか、その方法で本当に学習効果があるのかを、しっかりと見極めてコンテンツを作る必要があります。そして実施後にはしっかりと訓練の効果を評価することが大切です。 

教育学でよく言われることですが、学習目標を設定し、その目標を達成できるプログラムを実施し、効果測定をすることが大事なんです。

 防災訓練は、まだまだ体系化されていなかったり、そもそも学習目標がよくわからないものもあります。いろいろな訓練に参加しながら、効果的な防災訓練のあり方を考えています。

 

1つ目の学校での防災教育について話が戻りますが、私が小中学生のときは、何ヶ月かに一回「地震がありました」という放送が鳴って、グラウンド集まって……みたいな防災訓練が一般的でした。

今考えていらっしゃる防災教育というのは、そういうものではないということでしょうか?学校での訓練の具体例を教えていただくことはできますか?

木村様)特に東日本大震災の後、小学校を中心に防災訓練が大きく変わったんです。

今は多くの学校で「緊急地震速報」が鳴った時の対応訓練をやっていて、「緊急地震速報が鳴ったときに、もしくは地震の揺れを感じた時にどれだけ自分の身を守れるか」という訓練を行っています。

緊急地震速報は素晴らしい日本の技術ですが、どのような技術もちゃんと使われなければ価値がないですからね。 

最近の学校の訓練では、抜き打ち訓練が多く行われるようになりました。いきなり地震速報が鳴っても、地震が起きたと言われても、自分で判断して身を守れるかという点を重視しています。

そして訓練のあとには、グループワークで話し合いを行います。

廊下で起きたら、給食中に起きたら……といった、あらゆるシチュエーションでどう行動すべきかを話し合うのです。 

ある状況で地震が発生した時に、どういう判断をしてどういう行動をするのか。人間の「判断力」に重点を当てた訓練が、学校では増えてきています。

 

−今の大人よりも子どもの方が防災に詳しいかもしれないですね。

木村様)そうなんです。今は子どもの方が防災に関してはよく理解していて、「防災の逆転現象」と言われる現象が起きています。 

子どもが家に帰って、家族に訓練のことを話して、「うちでもやろうよ!」と親に言っても、「面倒くさい」「どうせ起きないんだから大丈夫」という言葉が返ってくることがあります。

それで子どもがヘコんでしまい、「大人がやらないなら、やらなくていいや」と思うようになり、結局子どもも防災を学ばなくなってしまうのです。

そういった現象に対しては、保護者の授業参観のようなオープンスクールの時に、抜き打ちで訓練をやったり、宿題や夏休みの自由研究として、親の防災対策を聞いたりといった取り組みも行われています。

あそび防災プロジェクトに期待すること

−あそび防災プロジェクトやおうち防災運動会に対して期待することはございますか?

 木村様)あそび防災プロジェクトは、これからもっともっと良くなっていく進化形のものだと思っています。現時点でも、みんなで気軽にできるコンテンツが揃っていますし、おうち防災運動会に関しては、遠隔でもできるというのがすごく重要な考えだと思います。

 あそび防災プロジェクトを、企業が営利目的でやっているプロジェクトという風に思われてしまうのは、僕は非常にもったいないと思っています。もちろん営利でなければ会社はつぶれてしまいますが()、防災はみんなでやっていく公共性の高いものなので、社会的価値もあるプロジェクトになると感じています。

今後、プロジェクトの開発を進めていく上で、単発のアイディアを整理する必要があると思っています。同じ効果のある薬を複数飲んでもだめなように、それぞれの訓練がどのような学習目標に対応しているのかを深掘りしながら、体系化していく必要があると思っています。

「あそび防災プロジェクトのこのコンテンツだと、防災で学ばなきゃいけないことのこことここを学べますよ」とか、「過去にこのような訓練をやったことあればここはできているので、次はこのプロジェクトを実施してここを学ぶとさらに違うこの能力を伸ばすことができますよ」とか、防災力をコンサルティングできることが大事だと思っています。

 

−弊社では、入り口を運動会や謎解きにした、面白い要素を踏まえた防災コンテンツを開発していますが、「もしこういうコンテンツと組み合わせたらもっと防災が広がるんじゃないか、学べるんじゃないか」と思うコンテンツは何かございますか?

 木村様)答えはひとつではないと思います。

いかに日常のコンテンツや行事に「防災」を入れていくかが大切だと思っています。

 例えば、「小学校の防災運動会の種目の一つに担架リレーを取り入れて担架の使い方を学ぶ」というのは、普通の運動会に簡単に取り入れることができるので、先生方にとっては取り入れやすい防災訓練です。

他にも、地域の自治会などで草むしりやドブさらいをする際に、安否確認のリストを同時に持って行って安否確認を行うという事例もあります。草むしりしてもらっているという借りがあるというものあり、安否確認にも対応してくれることが多いです。

他にも、日常でやっているイベントっていっぱいあるじゃないですか。

日常でやっているイベントや行事の中に「防災」を潜り込ませていくことで、防災のすそ野が広がるのではないのかなと思います。 

−ありがとうございます。日常の中に防災をかけ合わせられないかをもっと深く考え、防災を身近に思ってもらえるよう頑張ります。

木村教授にとって「防災」とは

−では最後に、木村様にとって、「防災」とは何でしょうか?

木村様)防災とは、「21世紀を生きていく上で欠かせない危機管理」です。

 例えば病気に対する健康管理はみんなしっかりやっているし、犯罪に対する防犯についても、例えば、夜中に子どもを一人で歩かせたりはしないかと思います。

同じように、災害に対する防災も、しっかり「わがこと意識」を持って行動につなげなければいけないと思います。別に、災害は、毎日・毎週来るわけではないけれど、起きたその1回が人生をひっくり返してしまうかもしれない、特殊な「危機」の一つです。

 「わがこと意識」としては捉えにくく、優先順位が上がりにくいですが、21世紀をちゃんと生きていくために、防災を危機管理の一つに加えてもらいたいです。そのためには、防災関係者がどのような戦略で防災を広めていくのかが、今、求められています。

 

−なるほど。本日は貴重なお話ありがとうございました!

 

★木村教授が携わっている活動については、こちらをご覧ください!

 

★2020年10月、木村教授の書籍が発売されました!

『授業でも研修でもすぐに使える グループワークのトリセツ』
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784779306464
※初めてワークショップを運営しようとする人でも、すぐに取り組めるように編まれたファシリテーションの実践書。料理を作る時のレシピ本のように、あるいは楽器で演奏する人のための楽譜のように、グループワークを運営するための指導案が時間配分とともに台本のように書かれています。

まとめ

災害は人々の生活に甚大な被害をもたらしますが、いつ起こるかわからないので、なかなか自分ごととして捉えにくく、優先順位が低くなりがちです。

そのような人の性質を理解した上で、防災意識を上げるには、どのような教育や訓練を行えばいいのか。木村教授は、「人」を対象に防災の研究を行うことで、人の命や生活を守るための効果的な訓練や教育の開発を進めています。

21世紀を生き抜くために、防災を「わがこと意識」で捉えること。「わがこと意識」を維持するために、効果的な教育や訓練を行っていくことが、私たちがやっていくべきことだと感じました。

今回のインタビューでは、防災を広めるためのプロジェクト「あそび防災プロジェクト」を作る上でヒントとなるお言葉も、たくさんいただきました。 

木村教授、インタビューにご協力いただき誠にありがとうございました!

JJ
この記事を書いた人
JJ

株式会社IKUSAのオウンドメディア担当。「あそび防災プロジェクト」をはじめとするメディアの編集長を務めています。記事の編集、校正、アナリティクス分析、駆け出し動画編集、WEBデザイン、メルマガ企画など遊びの会社の1人マーケターとして奔走中!

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